事業認定庁 【じぎょうにんていちょう】 |
土地収用の前提として、収用者(起業者)は大臣または知事から「事業認定」を受けなければならない。この事業認定を行なう官庁を「事業認定庁」という。
事業認定庁は、国土交通大臣または都道府県知事である。
具体的に大臣と知事のどちらが事業認定庁になるかは、土地収用法第17条に規定されている。それによれば、国土交通大臣が事業認定庁となるのは
(1)収用者(起業者)が国または都道府県のとき
(2)事業を施行する土地(起業地)が2以上の都道府県にまたがるとき
(3)その事業の利害の影響が、ひとつの都道府県の区域を越え、または全道に及ぶとき等
都道府県知事が事業認定庁となるのは(1)、(2)、(3)以外の場合である。
なお土地収用法第27条では、都道府県知事が事業認定庁であるのに、事業認定を拒否したり、事業認定申請書受理後一定期間に認定をしない場合には、国土交通大臣が事業認定を行なうという特例が定められている。 |
事業認定の告示 【じぎょうにんていのこくじ】 |
収用手続が公益上必要やむを得ないものであることを大臣・知事が認定する手続を「事業認定」という(土地収用法第16条)。
事業認定庁は、事業認定をしたときは、遅滞なく収用者(起業者)に文書で通知し、官報(知事の場合は知事が定める方法)で告示する。このような告示を「事業認定の告示」という(土地収用法第26条)。
この事業認定の告示があった日を起点として、法律上さまざまな効力が発生するとされている(詳しくは「事業認定の告示の効果」参照)。 |
事業認定の告示の効果 【じぎょうにんていのこくじのこうか】 |
収用手続が公益上必要やむを得ないものであることを、大臣・知事が認定する手続を「事業認定」という(土地収用法第16条)。大臣・知事がこの事業認定を行なったときには、大臣・知事は遅滞なく官報等において告示する(土地収用法第26条)。
この事業認定の告示のあった日から次のような法律効果が発生するとされている。
(1)収用の裁決の申請が可能に
収用者(起業者)は、事業認定の告示があった日から、1年以内に限って、収用委員会に対して「収用の裁決」を申請することができる。また、土地所有者または関係人は、起業者に対し、収用の裁決を申請するように請求できるようになる(土地収用法第39条)。
(2)関係人の固定
事業認定の告示の翌日以降に、新たに権利を取得したものは、関係人から除外される。(別項「関係人の固定」へ)
(3)補償金の支払請求が可能に
土地所有者または関係人(土地に関する関係人に限定される。ただし担保権者は除く)は、事業認定の告示のあった後は、起業者に対していつでも補償金の支払請求ができる。これは補償金の前払いということができる。
事業認定の時点での土地の価格に基づく支払請求であり、その後の物価変動による差額だけが収用の裁決により清算される(別項「補償金の支払請求」へ)。
(4)土地の価格の固定
土地に関する補償金の額は、事業認定の告示の時を基準時とし、その後は収用の裁決(権利取得裁決)の時までの物価変動修正率を乗じた額とする(土地収用法第71条)。
土地に関する権利(借地権など)についても同様。
(5)土地物件調査権
起業者は土地調書および物件調書を作成する義務を負うが、事業認定の告示後は、土地またはその土地上の物件について立入調査権が認められている。この場合、立入の許可は不要である(土地収用法第35条第1項)。
(6)協譲の確認の申請
協議の確認の申請ができるようになる。
(7)土地の保全義務の発生
事業認定の告示のあった後は、都道府県知事の許可を受けなければ、事業を施行する土地(起業地)について土地の形質の変更を行うことができなくなる(土地収用法第28条の3第1項)(詳しくは「土地の保全義務」へ)。
(8)事業認定の失効の期限の起算
事業認定の告示から1年以内に、収用の裁決を申請しないならば、事業認定そのものが効力を失い、白紙に戻るとされている(詳しくは「事業認定の失効」へ)。 |
事業認定の失効 【じぎょうにんていのしっこう】 |
土地収用法では、収用手続が公益上必要やむを得ないものであることを大臣・知事が認定する手続が存在し、この手続を「事業認定」という(土地収用法第16条)。
事業認定がなされた後には、できるだけ早期に収用の裁決を行ない、収用手続を完結されるのが望ましい。そこで次のように一定の期間内に所要の手続を終えることが要請されている(これに反して手続を終えない場合には、事業認定そのものが失効し、白紙に戻る)。
(1)事業認定の告示があった日から1年以内に収用の裁決の申請をすること。これをしないとき事業認定が失効する(土地収用法第29条第1項)。
(2)事業認定の告示があった日から4年以内に明渡裁決の申立てをすること。これがないとき事業認定が失効する(土地収用法第29条第2項)。
(3)事業認定の効果の発生をおさえる措置(収用手続の保留)をとった場合には、事業認定の告示があった日から3年以内に、「手続開始の申立て」を行なわなければならない。これがないと事業認定が失効する(土地収用法第34条の6)。
なお、事業認定の告示があった後に、起業者が事業の全部または一部を廃止しまたは変更したりする場合がある。この廃止・変更により、土地収用の必要がなくなった場合には、都道府県知事はその旨を告示する。
この「事業の廃止・変更の告示」があった日から、土地収用の必要がなくなった土地について事業認定は失効する(土地収用法第30条) |
事業認定の手続 【じぎょうにんていのてつづき】 |
収用手続が公益上必要やむを得ないものであることを大臣・知事が認定する手続を「事業認定」という(土地収用法第16条)。
この事業認定にあたっては、認定を行なう大臣または知事(事業認定庁)は、さまざまな機関や利害関係人から意見を聴取すること等の手続を行なう必要がある。
(1)専門的学識又は経験を有する者の意見
事業認定庁は、必要があると認めるときは、申請に係る事業の事業計画について専門的学識または経験を有する者の意見を求めることができる(土地収用法第22条)。
(2)審議会等の意見
事業認定庁のうち、国土交通大臣は、事業の認定に関する処分を行なおうとするときは、あらかじめ社会資本整備審議会の意見を聴き、その意見を尊重しなければならない。また都道府県知事は、審議会等(土地収用法第34条の7の審議会等)の意見を聴き、その意見を尊重しなければならない〔ただし事業認定申請書の縦覧期間内に、利害関係人の意見(大臣・知事に反対の意見)が提出されてない場合には、これら審議会の意見を聞く必要はない〕(土地収用法第25条の2)。
(3)事業認定申請書の縦覧期間における利害関係人の意見書提出
事業認定申請書は、2週間、公衆に縦覧させなければならない(事業認定申請書の縦覧)。この事業認定申請書の縦覧期間に、事業認定について利害関係を有する者は、都道府県知事に意見書を提出することができる〔国土交通大臣が事業認定庁である場合には、知事から国土交通大臣へ意見書を送付する〕(土地収用法第25条)。
(4)事業認定申請書の縦覧期間における利害関係人の公聴会開催請求など
事業認定庁は、事業認定について利害関係を有する者から事業認定申請書の縦覧期間内に公聴会を開催すべき旨の請求があったときその他、必要があると認めるときは、公聴会を開いて一般の意見を求めなければならない(土地収用法第23条)。
なお、事業認定庁は、事業認定申請書を受理した日から3ヵ月以内に、事業の認定に関する最終的な処分(認定処分または拒否処分)を行なうように努めなければならない(土地収用法第17条第3項)。 |
事業用借地権 【じぎょうようしゃくちけん】 |
新借地借家法(平成4年8月1日施行)により創設された定期借地権のひとつ。
「事業用借地権」とは、事業用の建物(ただし居住用賃貸事業を除く)の所有を目的とし、存続期間が10年以上20年以下であるような定期借地権である。
また「事業用借地権」を設定する際には、必ず公正証書によって契約をしなければならないとされている。 |
事業予定地内の制限 【じぎょうよていちないのせいげん】 |
知事の指定等により定められた事業予定地において適用される制限のこと。
1)事業予定地の定義
事業予定地とは、次の2種類の土地を指す(都市計画法第55条第1項)。
ア)都市計画で定められた都市施設の区域の内で、知事(指定都市等では市長)が指定した土地
イ)4種類の市街地開発事業(市街地再開発事業、住宅街区整備事業、新住宅市街地開発事業、工業団地造成事業)の施行区域内のすべての土地
2)事業予定地内の制限の趣旨
事業予定地については、通常の都市施設・市街地開発事業の建築制限(「都市計画施設の区域内の制限」「市街地開発事業の施行区域内の制限」参照)よりも厳しい建築制限が課せられる。また、土地の先買い制度が適用される場合がある。
これらの制限は、事業予定地では比較的大規模な事業が実行され、または迅速に事業を実行に移す必要性が高いためであると考えられる。
3)建築制限のあらまし
事業予定地では、建築物を建築するには知事(指定都市等では市長)の許可が必要である(都市計画法第53条第1項、第55条第1項)。この許可について次の点が重要である。
ア)建築物の建築には許可が必要。ここで建築とは「新築、増築、改築、移転」を指す(都市計画法第4条第10項)
イ)土地の形質変更(宅地造成等)は許可が不要。工作物の建設も許可が不要。
ウ)容易に移転除却ができる建築物等(すなわち都市計画法第54条の基準を満たす建築物)であっても、知事等は建築を不許可にすることができる(下記4)へ)
エ)上記ウで建築が不許可とされたとき、土地所有者には救済措置が設けられている(下記5)・6)へ)
オ)軽易な行為などを行なう場合、知事等の許可はそもそも不要である(下記7)へ)
カ)都市施設や市街地開発事業に「施行予定者」が定められている場合には、さらに厳しい制限が課せられる(下記9)へ)
4)建築許可の基準
通常の都市施設や市街地開発事業では、都市計画法第54条の基準を満たす建築物(主要構造部が木造・鉄骨造等で階数が2以下、地階がなく容易に移転除却できる建築物、都市計画に適合した建築物)については、知事等は必ず建築を許可する(「都市計画施設の区域内の制限」「市街地開発事業の施行区域内の制限」参照)。
しかし事業予定地では、都市計画法第54条の基準を満たす建築であっても、知事等は不許可とすることができる。ただし下記5)・下記6)の救済措置が設けられている。
5)不許可とされた場合における「土地の買取りの申出」
都市計画法第54条の基準を満たす建築について知事等が不許可とした場合に、土地所有者がその土地の利用に著しく支障をきたしたならば、土地所有者は知事(または知事が指定した相手)に対して、その土地を買い取るよう申し出ることができる(都市計画法第56条)。これは不許可に対する救済措置である。このとき知事(または知事が指定した者)は、特別の事情がない限りその土地を買い取る。
6)買取りがされない場合
上記5)において、知事(または知事が指定した者)がその土地を買い取らない場合がありうるが、買い取らない場合には、土地所有者は、都市計画法第54条の基準を満たす建築物の建築許可を知事等に申請できる。このとき知事等はその建築を許可しなければならない(都市計画法第55条第1項但書)。
結局のところ、都市計画法第54条適合の建築が不許可にされたことで著しい支障をきたした土地所有者は、上記5)または6)のどちらかで救済されることとなる。
7)許可不要の行為
管理行為、軽易な行為(※1)、非常災害のため応急措置として行なう行為、都市計画事業の施行として行なう行為は、建築の許可がそもそも不要である(都市計画法第53条第1項)。従ってこれらの行為には上記5)・6)の救済措置は適用されない。
(※1)軽易な行為としては「木造で階数が2以下で地階を有しない建築物の改築又は移転」が定められている(都市計画法施行令第37条)
8)土地の先買い制度の適用について
知事(指定都市等では市長)が、事業予定地において「先買い制度を適用する旨」を公告したときは、先買い制度が適用される(都市計画法第57条第1項)。
この場合には、事業予定地内の土地の有償譲渡(※2)をしようとする者は、事前に、一定の相手方(知事等が公告した相手方)に対して届出をしなければならない。相手方は届出のあった土地を優先的に買い取ることができる。
(※2)「土地の有償譲渡」のみが先買い制度の対象である。従って「土地と建築物等を一体とした有償譲渡」、「建築物のみの有償譲渡」には先買い制度は適用されない。
9)施行予定者が定められている場合について
都市施設や市街地開発事業において「施行予定者」が定められている場合には、上記3)・4)・5)・6)・7)・8)は適用されない(都市計画法第57条の2)。これらに代わって、さらに厳しい制限が課せられる(詳しくは市街地開発事業等予定区域の区域内の制限へ)。 |
軸組 【じくぐみ】 |
垂直材(柱)と水平材(梁など)を組み合わせたもの。
木造の建築物の「骨組」のことである。 |
仕口 【しぐち】 |
水平材・垂直材・斜材をさまざまに組み合わせて使用するとき、それらの材どうしの接合部を「仕口」という。
「仕口」は軸組全体の強度を大きく左右するものであるので、一般に金物で補強することとされている。 |
時効 【じこう】 |
ある事実状態が一定期間継続した場合に、そのことを尊重して、その事実状態に即した法律関係を確定するという制度を「時効」という。
時効は「取得時効」と「消滅時効」に分かれる。取得時効は所有権、賃借権その他の権利を取得する制度であり、消滅時効は債権、用益物権、担保物件が消滅するという制度である。
時効は時間の経過により完成するものであるが、当事者が時効の完成により利益を受ける旨を主張すること(これを援用「えんよう」という)によって初めて、時効の効果が発生する。
また時効の利益(時効の完成によって当事者が受ける利益)は、時効が完成した後で放棄することができる。これを時効利益の放棄という。
また時効は、時効の完成によって不利益を受ける者が一定の行為を行なうことにより、時効の完成を妨げることができる。これを時効の中断という。 |