時効完成後の債務の承認 【じこうかんせいごのさいむのしょうにん】 |
債務が消滅時効により消滅した後に、債務者が、消滅時効が完成したことを知らないまま、債務の存在を承認することを「時効完成後の債務の承認」という。
例えばAがBから借金をしていた場合に、時効期間の経過により債権の消滅時効が完成し、すでに債務が消滅しているのに、AがBに返済を督促したとする。このときBが、消滅時効の完成を知らないまま、Aに対して返済の猶予を求めたり、一部だけ返済したとしよう。このようなBの行為が、時効完成後の債務の承認に該当する。
この場合、Bの債務はすでに消滅しているのであるから、Bは時効の完成を主張すれば(すなわち時効を援用すれば)、消滅時効の起算点にさかのぼって債務は消滅するので、起算点以降に支払った金銭の返還を求めることができると考えることもできる。
しかし判例では、このようなBについて、いったん債務の存在を認めるような行為(返済の猶予を求めるなどの行為)をした以上は、その行為の後であらためて消滅時効を援用することは許されないとしている。
この理由は「いったん債務の存在を承認した以上、債権者Aとしては債務者Bがもはや消滅時効を主張することはない、と信頼するのが通常である。BはこのAの信頼を裏切ることは許されない」と説明されている。従って、時効完成後の債務の承認により、時効の援用権の行使が不可能になるということができる。 |
時効の援用 【じこうのえんよう】 |
時効の援用とは、時効の完成によって利益を受ける者が、時効の完成を主張することである。時効の援用とは、時効の効果を確定的に発生させる意思表示であるということもできる。
当事者が時効を援用しない限り、時効の効果は発生しないものとされている(民法第145条)。時効の援用は、裁判において主張することもできるが、裁判外で主張することもできる。なお時効の援用は「相対効」とされており、援用した者だけが時効の完成を主張することができ、援用しない者についてまで時効が完成するわけではない。
時効の援用をすることができる者の範囲は、「時効の完成により直接的に利益を受ける者」に限定されている(判例)。ただし「直接的に利益を受ける者」の範囲は、判例上しだいに緩やかに解釈されるようになってきており、また判例も多数あるので注意したい。いくつか具体例を挙げる。
1)保証人
債務者の債務を保証している保証人は、債務者の債務が消滅時効により消滅すれば、保証債務から解放されるので、「消滅時効の完成により直接利益を受ける者」に該当する。たとえ債務者が時効を援用しなくとも、保証人自身が債務者の債務が時効消滅していると主張し、消滅時効を援用することができる(つまり保証人は援用権者である)。
なお債務者が時効を援用せず、保証人が援用した場合には、債権者は保証人に対する関係では債務の存在を主張できなくなる。従ってこの場合には、保証のない債務が残る結果となる。
2)物上保証人
債務者のために自己の財産を担保に入れている者(物上保証人)も、上記の保証人と同じ理由により、援用権者である。
3)抵当不動産の第三取得者
AがBから借金をし、その担保としてA所有の土地に抵当権を設定し、その後にAがこの抵当権付の土地をCに売却したとする。このときCを抵当不動産の第三取得者というが、CはAの債務(借金)が消滅時効により消滅すれば、抵当権も同時に消滅するので、Cの所有する土地の価値は上昇する。このようなCも消滅時効の援用権者である。
4)仮登記担保付の不動産の第三取得者
借金の担保として債務者の土地について再売買の予約を行ない、登記の原因を「売買予約」として「所有権移転請求権仮登記」を行なった場合も、実質的には上記3)の抵当権の設定と同じことである。そのため、こうした仮登記のついた不動産の第三取得者も、上記3)と同様に、消滅時効の援用権者である。
5)借地人・抵当権者
取得時効の時効期間が経過した土地の借地人や、その土地に抵当権を設定している抵当権者は、その土地が取得時効により取得されたことを主張できる。つまり借地人や抵当権者は援用権者である。
6)建物賃借人は土地所有者に対して取得時効を援用できない。
AがBの土地を占有し、Aが自己所有の建物を建築し、その建物をAがCに賃貸した場合に、建物賃借人であるCは、Aが取得時効により土地を取得していることをBに対して主張できないとされる(昭和44年7月15日最高裁判決)。ただし学説はこの判例に反対である。 |
時効の中断 【じこうのちゅうだん】 |
時効とは、ある事実状態が一定期間継続した場合に、その事実状態を尊重して、その事実状態に即した法律関係を確定するという法制度である。
この事実状態が継続する必要があるとされる一定の期間を「時効期間」といい、時効の種類により時効期間が設けられている(例えば所有権の短期取得時効の時効期間は10年、所有権の長期取得時効の時効期間は20年、普通の金銭債権の消滅時効の時効期間は10年である)。
このような時効期間が進行している途中において、それまで継続してきた事実状態を妨げるような事実や行為が発生した場合には、もはや事実状態の継続が失われたことになるので、それまで進行してきた時効期間はすべて効力を失うことになる。
このように、一定の事実や行為によって、それまで進行してきた時効期間が効力を失うことを「時効の中断」と呼んでいる(時効の進行が「ふりだしに戻る」ということである)。
なお、時効を中断させるような事実や行為は「時効の中断事由」と呼ばれている。 |
時効の中断事由 【じこうのちゅうだんじゆう】 |
それまで進行してきた時効期間の効力を失わせるような事実や行為のことを「時効の中断事由」と呼ぶ。時効の中断事由が発生することにより、時効の中断が生じ、時効の進行はふりだしに戻る。このような時効の中断事由には次の3種類がある。
1)権利の主張(「請求」:民法第147条第1号)
権利の主張には「裁判上の請求」「支払督促」「和解のための呼び出し・任意出頭」「破産手続参加」「催告」がある(民法第149条から第153条)。
このうち催告(民法第153条)とは、裁判外での権利の主張を総称したもので、権利を主張する意思を相手方に通知することである。書面で通知しても口頭で通知してもよいとされている。
しかし催告は、その後6ヵ月以内に裁判上の請求・和解のための呼び出し・任意出頭・破産手続参加(または下記2)・3)の行為)をした場合にのみ、時効を中断させることができる。
例えば内容証明郵便で借金の返済を要求したとすれば、その要求自体は「催告」に該当するが、その要求から6ヵ月以内に裁判を起こすなどの行為をしなければ、債権の消滅時効をふりだしに戻すことはできない、ということである。
また支払督促(民法第150条)とは、民事訴訟法第382条以下に規定されている簡易裁判所で行なう簡易な債権回収手続のことである。仮執行宣言が付与された場合に、支払督促は時効中断の効力を生ずる(詳しくは支払督促へ)。
また裁判上の請求(民法第149条)とは、原則的に裁判を提起することである。
2)差押・仮差押・仮処分(民法第147条第2号)
債権の強制執行(差押)や債権の保全処分(仮差押・仮処分)が行なわれた場合には、時効が中断する。
3)承認(民法第147条第3号)
債権の消滅時効では、債務者が債務を承認することにより時効が中断する。この承認とは、具体的には支払猶予の要請、利息の支払い、債務の一部弁済などである。 |
時効利益の放棄 【じこうりえきのほうき】 |
時効の完成によって利益を受ける者が、時効の完成による利益を放棄することである。
時効利益の放棄は、時効が完成する前に放棄することができない(民法第146条)。これは特に、債権の消滅時効において、債権者が債務者の窮状に乗じて、債務者に時効利益の放棄を事前に強いることを防止するための規定である。
ただし時効完成後に放棄することは自由である。なお時効利益の放棄と類似した問題として「時効完成後の債務の承認」がある。
時効利益の放棄は「相対効」である。つまり時効を援用できる者(援用権者)が複数いる場合に、一人が時効利益を放棄してしまっても、他の者はそれに関係なく時効を援用できるということである。
なお債務の保証については、時効利益の放棄は次のように解釈されている。
1)主債務者が時効利益を放棄し、その後に保証人が時効を援用した場合
AがBから借金をし、その債務をCが保証した場合、AB間の債務を主債務といい、BC間の債務を保証債務という(保証債務は、主債務が弁済されないときに、補充的に主債務の弁済されない部分を弁済するという債務である)。
ここで主債務者Aは借金が消滅時効で消滅したにもかかわらず、時効利益を放棄したのであるから、主債務は有効に残存している。しかし時効利益の放棄は「相対効」であるから、保証人Cは独自に主債務の消滅を主張してよい(これは保証債務の消滅を意味する)。
2)主債務者が時効を援用し、その後に保証人が時効利益を放棄した場合
時効の援用は「相対効」を持つに過ぎないから、Aの時効の援用は、Cに影響しないのが原則であるが、保証債務は主債務の消滅により自動的に消滅するという性質(附従性)を持つので、この附従性を通じて、Aの時効の援用は、Cの保証債務を消滅させる。その結果、保証人Cは時効利益を放棄することは不可能となる(消滅してしまった保証債務を、時効利益の放棄により復活させることはできない)。
従ってこの場合、保証人Cが時効利益を放棄する旨の意思表示をしたことは無意味であり、仮にCがBに対して債務を支払ったならば、その支払い分は本来は不当利得返還請求によりCに返還されるべきである(ただし民法第705条の非債弁済の規定により、Cは返還を請求することができないという結論になる)。 |
自己の財産におけるのと同一の注意義務 【じこのざいさんにおけるのとどういつのちゅういぎむ】 |
善管注意義務よりも軽い注意義務のこと。
民法では、一定の場合に「取引上、一般的・客観的に要求される程度の注意義務」を取引関係者に要求しており、この注意義務を「善管注意義務」という。
これに対して、民法上、一定の場合には善管注意義務よりも軽い注意義務だけを負うことがあり、これを「自己の財産におけると同一の注意をなす義務」または「自己のためにすると同一の注意をなす義務」などと呼んでいる。(詳しくは「善管注意義務」へ)
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自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限 【じこのしょゆうにぞくしないたくちまたはたてもののばいばいけいやくていけつのせいげん】 |
宅地建物取引業者が他人物や未完成物件を売ることを原則的に禁止するという規制のこと。これは一般消費者を保護するための措置である(宅地建物取引業法第33条の2)。
(1)概要
「自己の所有に属しない宅地又は建物」とは他人物(たにんぶつ)と未完成物件を指している。
他人物の売買は、民法上は可能とされているが、一般消費者にとってはそのような取引を行なうことは危険性が高い。未完成物件の取引も同様である。そこで宅地建物取引業法では、そのような他人物・未完成物件の売買取引を、原則的に禁止しているのである。
(2)他人物売買の制限
宅地建物取引業法では他人物売買について、原則的に禁止する措置をとっている(法第33条の2本文)。
具体的には、宅地建物取引業者は、他人の所有物について、自らが売り主になるような「売買契約」を締結することができない。また、宅地建物取引業者は、他人の所有物について、自らが売り主になるような「予約」を締結することもできないとされている。
ただし、「他人物を確実に取得できるという別の契約または予約」があるときには、他人物の売買契約または予約を締結してよいという例外規定がある(法第33条の2第1号)。(詳細については別項目の「他人物売買の制限」へ)
(3)未完成物件の売買の制限
未完成物件を造成中・工事中の段階で販売することは、「自己の所有に属しない宅地建物の売買契約締結」に該当するので、原則的に禁止されている(法第33条の2本文)。
しかし、仮に、造成中における宅地分譲・工事中における建物分譲が全く行なえないことになっては不動産実務上、非常に不便ことは明らかである。
そこで、宅地建物取引業法では「未完成物件に関する手付金等の保全措置」が行なわれている未完成物件については、造成中・工事中であっても、未完成物件の売買契約または予約を締結してよいこととしている(法第33条の2第2号)。(詳細については別項目の「未完成物件の売買の制限」へ)
(4)適用範囲
宅地建物取引業者が売主で、宅地建物取引業者以外の者が買主になる場合についてのみ適用されることになっている(法第78条第2項)。
(5)違反に対する罰則
「自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限」(法第33条の2)に違反した場合には、宅地建物取引業法の監督処分として「指示処分」または「業務停止処分」が予定されている。
なお、「自己の所有に属しない宅地又は建物の売買契約締結の制限」に違反した売買契約(予約含む)の効力については、宅地建物取引業法にはこれを無効とする規定がないので、そのまま有効な売買契約(予約含む)として取り扱われることになる。 |
史跡 【しせき】 |
記念物であって「貝塚・古墳・都城跡・城跡・旧宅等の遺跡で、我が国にとって歴史上・学術上価値の高いもの」に該当し、文部科学大臣が官報に告示することによって指定したものを「史跡」という(文化財保護法第69条)。
史跡等に関して、その現状を変更し、またはその保存に影響を及ぼすような行為をしようとするものは文化庁長官の許可を受けなければならない(文化財保護法第80条)。
ただし現状変更については維持の措置・非常災害のために必要な応急措置については許可を要しない。また保存に影響を及ぼすような行為については影響が軽微であるときは許可を要しない(文化財保護法第80条)。 |
自然環境保全地域 【しぜんかんきょうほぜんちいき】 |
環境大臣が指定する、自然環境を保全する必要性が特に高い地域(自然環境保全法第22条)。
なお、「自然環境保全地域」は自然公園の区域を含まない。
「自然環境保全地域」に指定されると、建築物の建築、工作物の建築、宅地造成、海底の形状変更、土石採取、特別地区内の河川湖沼の水位・水量に影響をおよぼすような行為をする場合には、30日以上前に環境大臣へ届出をすることが必要となる(自然環境保全法第28条)。
また「自然環境保全地域」の中に特別地区が設けられることがある。この「特別地区」では建築物の建築、工作物の建築、宅地造成、海底の形状変更、土石採取、大臣の指定する湖沼・湿原の周囲1キロ以内で排水設備を設けての汚水や廃水の排出、大臣の指定する原野山林等での車・馬・動力船の使用と航空機の着陸などについては環境大臣の許可が必要である(自然環境保全法第25条)。 |