他人物売買の制限 【たにんぶつばいばいのせいげん】 |
宅地建物取引業者が他人物を売ることを原則的に禁止するという規制のこと。これは一般消費者を保護するための措置である(宅地建物取引業法第33条の2)。
(1)概要
本来、他人の物を売買することは不可能とする考え方もありうるが、わが国の民法(民法第560条)では他人の物の売買も有効な売買契約であるとして認めている。
しかしこのような他人物売買では、売買取引に精通していない一般の買い主は、不利益をこうむる恐れがある。
そこで、宅地建物取引業法第33条の2では、他人物を売買の対象とすることを原則的に禁止しているのである。
(2)他人物売買の制限
法第33条の2では次のように定めている。
宅地建物取引業者は、他人の所有物について、自らが売り主になるような売買契約を締結することができない。
また、宅地建物取引業者は、他人の所有物について、自らが売り主になるような予約を締結することもできない。
(3)他人物売買が許される場合 その1
ただし、「他人物を確実に取得できるという別の契約または予約があるとき」には、他人物の売買契約または予約を締結してよい(法第33条の2第1号)。
例えば、あるA氏所有の中古マンションを、宅地建物取引業者B社が一般消費者であるC氏に売却する場合を想定しよう。このときB社が、A氏の所有物である中古マンションをそのままでC氏に売却することは、他人物売買に該当するので、上記(2)により禁止されているはずである。
しかしB社がA氏との間で、1ヵ月後にそのマンションをB社が購入するという予約を締結済みであったならば、「他人物を確実に取得できるという別の契約または予約がある」ことになるので、BC間の売買契約の締結が許されるということである。
なお、「他人物を確実に取得できるという別の契約または予約」について、この「別の契約または予約」は、停止条件が付いているものであってはならない。
停止条件付きの契約(予約)とは、ある事実(発生するかどうかが不確実な事実に限る)が発生したときに、初めて契約(予約)が効力を生じるという特殊な契約(予約)のことである。
先程の例でいえば、B社がマンション購入をA氏と予約する際に、A氏が「ほかにもっとよいマンションが運よく見つかったら今のマンションをB社に売ることを承諾する」という条件を付けていたとしよう。すると、これは「停止条件付きの予約」に該当するので、「他人物を確実に取得できるという別の契約または予約」が存在しないことになってしまう。
(4)他人物売買が許される場合 その2
換地処分の公告以前の「保留地予定地」については、宅地建物取引業者が一般消費者へ転売することが許されている(施行規則第15条の6第3号)。
(5)適用範囲
この「他人物売買の制限」(法第33条の2)は、消費者を保護するための規定である。
従って、宅地建物取引業者どうしの売買については、他人物であっても制限なしに売買することができる(法第78条第2項)。 |
垂れ壁 【たれかべ】 |
天井から垂れ下がった形状の壁のこと。
建築基準法では、こうした垂れ壁であって、天井面から50センチ以上、下方向に突き出しているものを「防煙壁」と呼ぶ。
この「防煙壁」は、火災により発生する煙の拡散を防ぎ、避難を容易にするための設備のひとつである(建築基準法施行令第126条の2)。 |
短期取得時効 【たんきしゅとくじこう】 |
所有の意思をもって、物を一定期間占有したとき、その物の所有権を取得することができるという時効の制度である(民法第162条)。
占有を開始した時点において自己の物であると信じ、そう信じるにつき無過失(善意かつ無過失)であれば、10年間の時効期間の経過により所有権を取得することができ、これを短期取得時効という(民法第162条第1項)。
これに対して占有を開始した時点において悪意または有過失であれば、20年間の時効期間の経過により所有権を取得することができ、これを長期取得時効という。
短期取得時効の成立要件は次のとおりである。
<地上権・賃借権の取得時効については、所有権以外の財産権の取得時効へ>
1)物を占有すること
物とは原則的に「他人の物」であるが、「自分の物」であってもよい。時効はそもそも継続した事実状態と法律関係を一致させようとする法制度であるので、自分の物を長期間占有したという継続した事実状態を主張することは当然に可能である(判例)。また物とは国の財産であってもよい(例えば使用が廃止された国有水路など)。
物とは不動産でも動産でもよいが、動産については即時取得の制度が適用されるので、通常は動産について取得時効が問題になることはあまり考えられない。
2)10年間の時効期間が経過すること
占有が10年継続する必要がある。占有者が占有を中止したり、他人によって占有を奪われた場合には、その時点で時効の進行は中断する(つまり振り出しに戻る)。
また時効期間の計算では、占有を実際に開始した時点から起算する必要があり、占有の途中から起算することは許されないとするのが判例である。
3)平穏かつ公然に占有すること
通常は平穏かつ公然に占有しているものと推定されるのであまり問題とならない。真の所有権者であると主張する者が占有者に抗議したとしても「平穏な占有」である。
4)所有の意思をもって占有すること
所有権者と同様に物を支配する意思をもって占有することが必要である。土地賃貸借契約によって占有する場合には、その占有はあくまで賃借人としての占有にすぎないので、原則として「所有の意思」をもってする占有とはならない。
5)占有の始めにおいて善意かつ無過失であること
実際に占有を開始した時点において自己の不動産であると信じ、そう信じるについて過失がないことが必要である。ただし占有の途中で自己の不動産ではないと気付いたとしても問題にはならない(あくまで占有開始時点で善意・無過失であればよい)。 |
短期賃貸借保護制度 【たんきちんたいしゃくほごせいど】 |
抵当権が設定された不動産において、抵当権が登記された後に賃借権が設定された場合であっても、その賃借権が短期賃借権であるならば、その賃借権は抵当権に対抗できるという制度のこと。
(ただしこの短期賃貸借保護制度は平成16年3月31日をもって原則的に廃止されたことに注意)
1)短期賃貸借保護制度の趣旨
民法602条に定める短期賃貸借とは、土地は5年以内、建物は3年以内の賃貸借を指している。
ある不動産に抵当権が設定された場合、抵当権設定登記がなされた後に設定された賃貸借は、本来ならばすべて抵当権に劣後するのが原則である。
従って本来は、融資返済不能などの事情によって抵当権が実行された(すなわち抵当不動産が競売された)場合には、抵当不動産の賃借権者はその賃借権を抵当権者に主張することができないはずであり、抵当不動産の競落後には当該不動産を明け渡さなければならないのが原則である。
しかしこれでは、抵当権設定後の当該不動産の賃借利用を事実上阻害してしまう恐れがあるとの配慮から、期間が短い賃貸借に限って、例外的に抵当権に対抗できる(すなわち、たとえ競売されたとしても当該短期賃貸借の期間中、賃借人は当該不動産を明け渡さなくてよい)こととされた。これが「短期賃貸借保護制度」である。短期賃貸借保護制度は改正前の民法395条に規定されていた。
2)短期賃貸借保護制度の具体的適用
短期賃貸借保護制度の適用にあたっては、具体的にどのような賃貸借が「民法395条で保護されるべき賃貸借に該当するのか」が問題となる。
判例によれば、競売のための差押えの登記がなされた時点において、賃借権の残存期間(継続的な賃貸借契約の場合は次の更新時期までの残存期間)が民法602条の短期賃貸借の範囲内であるか否かにより判断することとされている。
例えば、平成15年2月1日にある賃貸マンションに競売のための差押え登記がなされた場合に、その賃貸マンションの賃貸借契約の更新時期が平成15年12月31日であるとすれば、この賃貸借の残存期間は11ヵ月であるので、短期賃貸借に該当し、民法395条により保護されることとなる。
ただし更新時期到来時にはこの賃貸借契約を更新することができないので、賃借人は平成16年1月1日以降はこのマンションを賃借することはできず、明け渡さなければならない。
3)短期賃貸借制度の廃止
このように賃借権保護等のために一定の役割を果たした短期賃貸借保護制度であったが、平成15年8月1日に公布された「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」により、平成16年3月31日以降原則的に廃止された。(詳しくは短期賃貸借保護制度の廃止を参照) |
短期賃貸借保護制度の廃止 【たんきちんたいしゃくほごせいどのはいし】 |
改正前の民法395条に定められていた短期賃貸借保護制度が法改正により廃止されたこと。その代わりとして、建物明渡猶予制度が創設されている。
1)短期賃貸借保護制度とは
抵当権が設定された不動産において、抵当権が登記された後に賃借権が設定された場合であっても、その賃借権が短期賃借権であるならば、その賃借権は抵当権に対抗できるという制度である(詳しくは短期賃貸借保護制度参照)
2)短期賃貸借保護制度の廃止の背景・経緯
短期賃貸借保護制度は、抵当権設定後の抵当不動産の賃借利用を一定限度で保障する制度であったが、依然として占有屋等による競売執行妨害にこの制度が濫用されるという弊害があった。
また賃貸借契約の更新時期と競売のための差押え登記の期日とが近接しているかどうかという偶然の事情により、賃借人が賃借を継続できる期間に著しい格差が生じるという問題点もあった。
そこで、平成15年8月1日に公布された「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」により、平成16年3月31日以降、短期賃貸借保護制度は廃止され、その代わりに建物明渡猶予制度が創設されている。
3)短期賃貸借保護制度の廃止に伴う経過措置
「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律」の施行日(平成16年4月1日)より以前に抵当不動産に設定された賃貸借については、依然として短期賃貸借保護制度が適用される(同法附則第5条)。
4)建物明渡猶予制度の創設
建物明渡猶予制度とは、抵当権に対抗することができない賃借権について、抵当権の実行による競売がなされた場合に、賃借人は競落人の買受の日から6ヵ月間に限り、当該不動産を明け渡さなくてよいという制度のことである(改正後の民法395条による)。(詳しくは建物明渡猶予制度へ) |
単独行為 【たんどくこうい】 |
一人の1個の意思表示によって成立する法律行為のこと。
具体的には、遺言(民法第960条)のように、相手方の承諾なくして、ある人の一方的な意思表示で成立する法律行為である。また債務免除、解除なども単独行為とされている。 |
担保関係 【たんぽかんけい】 |
人がある人に給付を要求できるという関係(債権・債務関係)において、その給付を確実なものとするために、担保によって債権を保全するという関係を「担保関係」という。
例えば、AがBから100万円を借りている場合に、その借入の担保としてAが自分が所有する土地を担保にしたとしよう。
この場合に、BがAに対して100万円の支払いを要求することができるという関係が債権・債務関係であり、この100万円の支払いを土地によって担保しているという関係が担保関係である。
担保関係は、債務者の信用を創出する手段などとして機能している。 |
担保責任 【たんぽせきにん】 |
特定物の売買契約において、特定物に何らかの問題があったときに、売り主が負うべき責任を「担保責任」という(民法第561条、第563条、第565条、第566条、第567条、第570条)。
特定物とは、取引当事者がその物の個性に着目して取引するような物のことであり、具体的には美術品、中古車、不動産(土地・新築建物・中古建物)などを指す。
こうした特定物の売買では、買い主はその物の個性(長所・欠点の両方を含む)に着目して購入を決定するのであるから、仮にその物になんらかの欠点があったとしても、買い主はその欠点があることを理由に、売り主の責任を問うことはできないはずである。
しかしこれでは買い主の保護に欠けるし、売買取引の信頼性も損なわれる。
そこで法律(民法)では、担保責任の規定を設け、一定の場合には特定物の売り主に責任を負わせることとしたのである。こうした売り主の責任が「担保責任」である。
「担保責任」には具体的には次のものがある。
1)他人の所有物を売却しようとした売り主の担保責任(民法第561条・第563条)
2)物の数量が不足した場合の売り主の担保責任(民法第565条)
3)土地の上に賃借権等がある場合の売り主の担保責任(民法第566条)
4)不動産に抵当権が設定されている場合の売り主の担保責任(民法第567条)
5)物に「隠れたる瑕疵(かし)」がある場合の売り主の担保責任(民法第570条)
特に上記5)は「瑕疵担保責任」と呼ばれ、不動産の売買契約において特に重要な役割を果たしている。 |
担保物権 【たんぽぶっけん】 |
債権を保全するために設定される物権のこと。担保物権は約定担保物権と法定担保物権に分類することができる。
約定担保物権は、債務者の信用を創出するために、当事者の合意によって設定される担保物権であり、抵当権、質権がある。
法定担保物権は、政策的な必要性から、一定の事情がある場合に法律上当然に成立する担保物権であり、先取特権、留置権がある。
またこの他に、民法第二編には規定されていない約定担保物権があり、変則担保と呼ばれている。具体的には、譲渡担保、仮登記担保、買戻、再売買の予約、所有権留保である。 |
地目 【ち】 |
土地の現況および利用状況による区分をいい、不動産登記法施行令3条によれば、土地の主たる用途により、田、畑、宅地、塩田、鉱泉地、池沼、山林、牧場、原野、墓地、境内地、運河用地、水道用地、用悪水路、ため池、堤、井溝、保安林、公衆用道路、公園、雑種地の21種類に区分されている。不動産取引に当たっては、田・畑など地目によっては権利の移転等に制限がある場合があり、また登記簿上の地目と土地の現実の利用状況が一致していない場合もあることに、留意する必要がある。
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